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【発言録】 経済対話 後半

発言録 経済対話 後半1日本側基調報告
佐々木 伸彦氏(経済産業省通商政策局長、前JETRO北京センター所長)

 前職のJETRO北京センター所長の時に作成した「中国経済と日本企業 2010年白書」から、中国で事業を営む日系企業の問題点について紹介する。この白書は中国全土の約7,000社にアンケートを行い、その問題を挙げている。税関、金融、労働、知財といった横断的な課題に加え、建設業、金融業、製造業といった細部に亘って各会社がどういう点に困っているかを記している。
類型化すると、中国にいる日本企業は4つの点で苦労している。

1. 中国の制度が透明性に欠ける。規則が人によって解釈が違う。法制度間に矛盾がある。
2. 内国民待遇がない。
3. 知財権が十分に機能していない。
4. 中国独自の基準・標準で運営されているため、なかなか国際基準で事業が行えない。

 1の透明性について。例えば裁判では、欧米や日本国内と異なり、中国では日本企業はなかなか戦いにくい。裁判所や裁判官によって判断が違っていることがある。税金の問題では、例えば、本社を別の区に移そうとしたら、区の税収が落ちるので、なかなか許可がおりないことがある。環境規制にしても、規制そのものはあるが、規制が実行される段階になると行為が見逃されたりする。

 2の内国民待遇がないことについては、例えば一部の事業では、外資は独資での参入が難しかったりする。政府調達についても国内企業が優先され、外国企業には様々な規制で入っていけないという例がある。

 3の知財権については、制度はしっかりしたものがあるが、模倣品が横行している。また、日本で有名な商標が中国ですでに登録されていることもある。

 4の中国独特の基準については、例えば事務機械などでは国家標準と業界標準が別々に定められていて、矛盾している場合がある。政府調達についても、世界的な基準とは違う基準で日本企業が差別されているのではないか。

 以上の4点はルールの支配の徹底がされていないことを示すものである。我々は「その中で生きていかねばならない」ということを中国側にご理解いただきたいという観点で冊子を作り、当局に説明している。外国企業の声は、いずれ中国企業の声になる。模造品対策についても、やがては中国企業自身のためになるという点で、今後重要になってくるだろう。

発言録 経済対話 後半2中国側基調報告
魏 建国氏(中国国際経済交流センター秘書長、商務部副部長)

 金融危機以降、アジアはマイナス・リスクから立ち直り、回復を始めた。ここ数年の中日間の経済変化をみてみると、2010年、中日の貿易額は中米貿易を超え、中国と欧州との貿易額を超える可能性がある。日中関係を俯瞰的に眺めれば、相互の発展のためにはバイオ部門および中国の都市化と日本の技術部門の互恵関係、およびFTAの推進が重要になるのではないか。

 しかし日本には以下のような問題がある。

1. 日本は仕事が細かいが、スピードが遅い。1つのプロジェクトに時間がかかる。韓国や米国に敵わない。
2. 日中両国のコミュニケーションが足りない。特に労使間において不足している。
3. 中日の協力によってアジア地域の経済成長を牽引できるという認識が足りない。
4. 日系企業側に中国に対する信頼感が足りない。恐れを持っているようにみえる。

 以上を踏まえ、本フォーラムでは以下の6点について共通目的を持って議論したい。

①中国の成長モデルの転換
②バイオエネルギーや環境保全における協力
③地域貿易拡大
④政府、銀行の後押しを得た中小企業の協力
⑤為替レートの上昇に伴う資本輸出
⑥金融協力

発言録 経済対話 後半3田波 耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問、前国際協力銀行総裁)

 今後のカギとなる、内需拡大と投資機会の拡大の2点について述べたい。

 1点目は、現在、日中にとって最も大事なことは内需の拡大である。日本もニクソンショック以降、まだ苦しんでいるが、中国の場合もGDPに占める消費の比率が30数%であることを含め、どうやってこの構造を変えていくかが大事である。またその過程で賃金をどう上げていくか、社会保障をどう充実していくかがコンセンサスだと考える。最近の労働争議の問題は、分配率を高める動きであることには間違いないが、マクロ的にみれば、外国の企業にとっては投資意欲を減退させる要因になりかねない。中国にとっても生産コストが上がっていくので、これまでの優位が失われる方向にある。これらの解決は容易ではなく、今後の方向性に注目している。

 2点目は資本の動きについてである。中国の成長のためにも、金融分野での互恵協力は必要である。現在、中国には保険の新しい商品や預金と貸出の比率等の規制がある。IMFの調査では経済取引を自由化してから資本取引の自由化まで7-10年かかる。中国の場合、96年に経常取引の自由化が進んでいるので、資本取引の自由化をある程度行う段階に今来ているといえる。

発言録 経済対話 後半4迟 福林氏(中国(海南)改革発展研究院院長)

 今後5年、どのようにして中国の発展の方向性を変えていくかについて、3点議論したい。1点目は消費主導型である。今後5年で労働分配率を5~10%上げたいが、これにより中国は生産大国から消費大国へ変わっていく。2点目は都市化である。都市化は現在の46.6%から50~54%に上昇すると予想される。これにより、都市化主導の新しいトレンドが生まれる。3点目は中国の発展のモデルの転換である。経済全体のボリューム志向から所得志向に変えていく。中国の発展方法の変更は、日本企業へのニーズを、数量、分野、水準のいずれにおいても拡大させよう。

 投資環境の問題について、労使関係から例を挙げると、中国の発展モデルは必然的に賃金交渉の基礎を作ってきた。その中で労使対立は賃金体系形成の中で避けられない。これは日本の発展のなかでもみられたことである。中国は、現在の賃金体系形成の過程で、労使関係の改善、安定の基礎を築くであろう。

発言録 経済対話 後半5塙 昭彦氏(株式会社セブン&アイ・フードシステムズ代表取締役社長)

 1996年から10年ほど北京におり、実態には通じている。日本は下向きだが中国はひた向き。全国民が一つの方向に向かって進んでおり、いずれ日本を追い抜く国になると感じた。一人当たりGDPなどで見れば未だ途上国という指摘もあるが、世界第2位の国力を持つ国であることは揺らがない。

発言録 経済対話 後半6夏 占友氏(対外経済貿易大学国際経済研究院 副院長、教授)

 日中協力関係の強化はWin-Winの結果をもたらすだろう。そのため以下3点が求められる。

1. 早急にFTAを締結すること
 中国は世界の工場から世界の市場へと転換しつつあり、これを取り込むことは日本の成長戦略につながる。FTAによりモノ・ヒト・カネの流れがより活発になればこれを後押しするだろう。

2. 観光産業における協力
 観光産業は21世紀の主要産業の一つともいえる重要なものである。中国のニーズを取り込むことが日本の利益につながるだろう。

3. 金融分野における協力
 円、元ともに上昇圧力を受け続けるだろう。これではバブル後に経済の長期停滞を経験した日本の二の舞を踏んでしまう。資本輸出によりこれらを防ぐべきである。そのためには相互の信用・信頼が不可欠である。

発言録 経済対話 後半7袁 岳氏(北京零点市場調査分析会社総裁)

 中国人は既に高い購買力を持っており、今後も急速に向上していくだろう。その中でより高品質のものが志向されており、Re-Designが求められるだろう。また、新しい技術の開発も必要である。これらを促進する上で日中協力は不可欠である。パートナーを選んで相互協力し、規模の経済を活かして行くべきである。

発言録 経済対話 後半8日本側司会
福川 伸次氏(財団法人機械産業記念事業財団会長、元通商産業省事務次官)

 ディスカッションのテーマを明確にしたい。

1. いかにお互いに投資を増やしていくか。日中ともに共通しているのは非常に大きな国内貯蓄であり、円、元はともに増価圧力を受けている。
2. いかに中小企業の協力・交流を進めるか。
3. いかに省エネ・環境の分野をビジネスに結び付けるか。何が必要か。
4. いかに技術的・文化的イノベーションを促進するか。
5. いかにアジアの持続的成長に日中がより積極的に関わっていくか。

 まず1.について、投資をどのように増やしていくか。投資ルールを明確にすることが1つの方法と思うが、もう少し具体的に提案していただきたい。

佐々木氏
 金融危機以降、中国の役割は大きく変わり、世界の工場から世界の消費地になりつつある。現在の労使問題は所得増につながるが、これは中国の発展にはプラスと考えられる。外国勢は中国の購買力に注目して参入するが、この流れを中国側がきちんと受け止めて、外国勢にビジネスをさせる環境があるかが問われるのではないか。

福川氏
 明確かつ緩和的なルールは必要だ。しかし日本はなぜFTAの締結が遅れるのか?本気で必要だと思っているのか?

魏氏
 WTOは加盟国全体に適用されるのに対し、FTAは二国間を中心とした相互関係であり、付加価値を地域経済に落としこむ上では効果的である。日中、台湾も含めて推進すべきである。

発言録 経済対話 後半9中国側司会
周 牧之氏(東京経済大学教授)

 2010年1月にASEANではゼロ関税が既に達成されている。日本では関税交渉がニュースにも上らないようだが。

佐々木氏
 日本でも最近急速に注目されるようになってきている。

田波氏
 FTAが進まない理由は2つほどある。1つは、WTOで何とかしようとしたため、出遅れてしまったことにある。もう1つは、WTO時代からそうだが、農業の問題と政治の問題にある。

佐々木氏
 日本のFTA戦略が全くないわけではない。タイ、フィリピン、マレーシアなどASEANから7ヶ国やメキシコとの間でのFTAは既に発効している。しかしそれ以上に産業界のニーズは強くなっており、EUや中国などより大きな地域との締結を望んでいる。

福川氏
 次に、中小企業協力をいかに促進するかについて発言を求めたい。

袁氏
 中小企業の協力をいかに促進するかについては、テーマパーク化が重要である。たとえばNokiaは主幹工場の周辺に中小の部品工場を誘致している。これにより規模の経済を活かし、イノベーションを促進している。また、海外での起業を促進することも重要だが、日本は少ない。中国政府による中小企業の支援と保護も求められよう。

塙氏
 中国政府による中小企業に対する支援・保護・制度のあり方がはっきり見えないと日本の中小企業が進出するのは難しい。世界第2位の国としての自覚を持ち、モラルを高く持っていただきたい。何から何まで自国優先のままでは困る。一方、日本の民間セクターの自分の観点から言えば、日中両国に対してFTAの締結も直ちに進めていただきたい。また観光分野に関しても、両国間の人の往来が少ない。日本は中国人を迎える準備、努力を行うべきである。

周氏
 日本の中小企業の中国進出には何が必要になるか。

魏氏
 日本の中小企業は知的財産権が守られるかどうかを不安視している。また、中国の中小企業は規模を志向する傾向にあるが、寧ろもっと専門的で特色のある事業を強くしようすることが望ましいのではないか。

迟 氏
 中国市場の今後については、国民所得の向上と発展モデルの転換が予想される。農民工の市民化を伴う都市化、サービス業比率の向上により国民所得が向上し、市場のパイが大きくなる。

周氏
 中国人の日本への旅行は何がネックとなっているか。

夏氏
 所得によるビザの制限は適切でない。

 

【質疑応答】

佐々木氏
 アジアの持続的成長には以下が重要なのではないかと考える。

1. 企業がいかに付加価値を確保していくのか(集約の構造をいかに変えるか)。
2. グローバルスタンダードを創る力をアジア企業が持ちうるのか。
3. エコ産業の育成。
4. 協力して、EUなど未だに高関税を課している国・地域への門戸開放を迫れるか。

ショウ氏(電通)
 中小企業の中国進出促進に関して具体的に発表できる政策はあるか。

魏氏
 商務部や税関を含めて、優遇策について検討中である。中小企業間の発展は、双方の指導者とも重視しているが、双方の企業は少し腰が引けている。日本側は中国の知的財産権、管理、仕事のやり方に不安を感じている。中国側は欧米企業に比べて日本企業のメンタリティーが違うと感じている。

福川氏
 ミクロベース、企業ベースで見ていかに日中が協力し、アジア経済の発展につなげるかを議論してきた。以下の5点が重要な点として浮かび上がってきたのではないか。

1. 中国が成長モデルを転換する中で、両国の投資の可能性が高いという認識が共通にあった。そのためには、投資のルールを明確にしなくてはならない
2. FTAの推進。日中、韓国、東アジアを含めたFTAの推進が重要である
3. 企業の力、イノベーション力をいかに高めるか
4. 交流の問題。企業間、中小企業の政策面の交流。人材の交流を更に活発にする
5 .政府と民間の協力・連携を図る

 日中両国がアジアの色々な分野で投資を広げていく、或いはビジネス・チャンスを拡大する可能性は多々あるように思われる。従って、本日の議論を参考にして、日中両国が政府のベースで、あるいは民間のベースで協力をして、日中関係をより強固なものにし、アジアの発展を現実のものとしていきたいという結論が導き出されたのではないかと思っている。

親カテゴリ: 2010年 第6回
カテゴリ: 発言録