. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 第5回 北京-東京フォーラム 分科会 安全保障対話11月2日速報記事(後半)

安全保障対話④(後半:基調報告)

劉 江永氏(清華大学国際問題研究所教授)

 中国側は呉傑明氏からです。

呉 傑明氏(中国人民解放軍国防大学軍隊建設・政治活動部副主任)

 再びこのフォーラムに参加する機会を頂き感謝します。ここでは中日両国の交流についてお話しします。

 胡錦涛国家主席が昨年来日した際に4つのアドバイスをしました。その4つ目が「相互信頼を強めること」であり、そのためにはリアルタイムで互いの防衛システムを理解することが必要です。過去には互いの防衛戦略に対する理解が足りず、不信がありました。そこで指導者やメディアなどが互いのことを理解して貰うべく動き、中国政府も色々な白書を出しました。随時防衛政策を発表して透明化を図る中国に世界も注目していますから、中国の透明度が低いというのは客観的でないと思っています。今後もこの点で努力を続けます。例えば重大な軍事行動の時には、立場を明らかにする必要があります。ですから、安全や国防に対する理解を深める上で交流することが大切です。

 台湾問題は問題中の問題です。これはもっとも現実的で大きな問題であり、国際社会もそれに対して最低限の理解を示して欲しいと思います。ですが、国民党が政権交代をして馬英九政権となって以来関係が改善されており、日本との関係も見直されています。

 安全に関する情報提示の客観化というテーマがありますが、これは冷戦下の見方で見てはいけません。経済発展が最も大事ですが、それに伴う軍事力の発展も不可欠です。中国もイージス艦をいずれ持つでしょうが、軍事力向上の目的は世界の平和と人道的なものであって、それを客観的に見て欲しいと思います。もし軍事力向上を脅威に感じるのであれば、こちらも困ります。

 そして歴史と現在の問題ですが、歴史問題は現代の人間にも影響を与えます。靖国や慰安婦の問題で中国人は傷ついているため、民間の敵対感情が強まっています。鳩山総理は中日関係の改善に努めているとはっきり感じられますが、歴史問題の解決なしに良好な関係はありません。それから双方の国防の交流です。高レベルの軍事交流は盛んですが、これは適切に進めなければなりません。同時に軍人の間での交流も大切であり、中日は相互に若手の軍人を派遣し、見学しあいました。これは有意義なことですし、それからこのフォーラムのようなものも大切です。互いによい影響を与え、民間人の感情が回復します。北京―東京フォーラムを開く際、軍人の留学生を派遣することも考えられます。

若宮氏:

 山口さんお願いします。

山口 昇氏(防衛大学校総合安全保障研究科教授、元陸上自衛隊陸将)

 3つの点で呉さんの言ったことと重なります。
 第一に、人民解放軍と自衛隊の関係が親密になりつつあることです。そして今後はそれを深化させる必要があるでしょう。今中国の艦船が日本に向かっていますが、私はこれを非常に楽しみにしています。中国海軍の練習艦隊が来るということは、協力を続けたいということであると受け取っています。また、五百旗頭先生が士官候補生を若いうちから交流させることを提案し、来年からこれを行う予定です。それだと手前勝手ですが、米軍と太平洋陸軍管理セミナーなどをやって、そこに解放軍の人も来ました。そのテーマは激甚災害への対応で、米陸軍からは各国陸軍がどう貢献できるかについて高い水準で議論できたと高評価でした。
他方、日本の艦船が中国に行こうとしたとき、そういう雰囲気ではないということでキャンセルになりました。中国側は日本国民の関心が高くないため、この派遣にあまり意味がないといいました。日本側が理解すべきなのは、単に艦隊が来るだけでも手間がかかるということです。その意味では、今回中国の艦隊が来てくれるのはありがたいことです。

 第二に、透明性の問題についてです。中国は国防費の用途が不透明だといわれていますが、呉さんには賛成です。国防白書を出したらどうかと言っても難しかった時期もありましたが、今はかなり改善しています。他方、透明であることと透明に見えることには若干の差があるということを中国の友人に言っています。核心や弱みは見せられないが、相手が透明だと思うように見せることが大事だと言うことです。
私の提案・示唆は、中国の軍事力整備の目標が分からないことにあります。アメリカはその見直しによって分かりますし、日本のプロセスも分かります。例えばJ10とかの戦闘機が結構なペースで増えていますから、どこまで増やすのかわからないと大変なことになります。解放軍のなかでも色々なプロセスがあるので、それを示すことが必要だと思います。
そして、コミュニケーションの上手さの重要性です。日本もときに中国や韓国の気持ちを逆なですることがありますが、中国の富国と強軍を目指すという言い方には嫌なイメージがあります。PKOもMDも賛否両論で底意が分かりますが、中国はそれが分かりません。

 最後にナショナリズムの問題です。残念ながら中日ともに国民同士の感情的な関係があっという間に悪くなることがあります。ですから注意深く対応しなくてはなりません。中国は金融危機からいち早く脱しましたが、日本では未だみな下を向いています。日本は自国を過小評価しながら、責任まで過小評価しています。そんな中で反米ナショナリズムなどが出ていますが、内向きになればそういった反動が出ます。そういうことを我々も言いますが、皆さんからも言って貰うといいでしょう。
それから田母神さんのことです。全く議論対象にならないようなものであるにもかかわらず、ちゃんと読まずに同調する人もいます。現代史をちゃんと勉強すれば議論の対象にならないことは明らかですが、明石氏の言ったように現代史が薄いのです。まず知らないのが問題であって、これは世代レベルの努力が必要です。これには時間がかかりますが、できるだけ早く始め、地道に共同研究をすることも大事でしょう。以上です。

安全保障対話⑤(後半:討論1)

劉:

 次は胡氏です。

胡 飛躍(中国医学科学院衛生政策・管理研究室)

 ご紹介ありがとうございます。日本の政権交代についてですが、これは時代の現われであり、民意の現われです。偶然ではありません。日本社会には大きな変化が現れているように思います。

 中日関係にはチャンスとチャレンジが共存しています。私は衛生以外に国際関係も専門にしていますが、外交では両国が格差を無くすために協力すべきです。また、経済貿易や社会発展においても協力が期待されます。外交においては冷戦体制が解消し、東アジアの新しい局面が訪れています。鳩山新政権後は指導者との交流が進み、これは北東アジアの安全問題にとってもいい影響を与えています。日米安保を不快だと考える人はいません。
 衆議院では安全保障調査会で一度も法案が通りませんでした。その点で民主党には注目しています。非伝統的な協力が大切になります。それはインフルエンザや環境問題などについてもいえることです。ですから今年は中国と日本の衛生関連機関は新型インフルエンザが広がらないように連絡を取り合っています。これは将来に期待できる展開です。中国政府は毎年日本の教授を呼んでインフル対策を話して貰うが、こういうものが政府間の交流の一つとして優先されるようになればと思います。両者の努力により、良い未来がもたらされることでしょう。以上です。

若宮:

 後半から参加の高原先生。

高原 明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 医学の専門家ではありませんが、胡さんに感謝します。話を伝統的な安全保障に戻させて貰います。たくさんのプロジェクトを通じて若者に日本へ来て貰っていますが、彼らと話をして共通しているのは、日本に来る前と後では全く印象が違うということでした。ただ、昨年来た大学生との会話で気になることがあります。それは東シナ海のことです。合意したモノを具体化する段階でなかなかうまくいかないというのはご存知の通りですが、その時の中国の学生が比較的強硬で、今合意するのは不利であると。これから中国はどんどん強くなるのだから、強くなったときに合意すれば有利だと言うのです。これは困ったなと。中国がこれまで批判してきた覇権主義になってしまっています。こういう考えが広まれば地域で孤立することになるでしょうが、どれくらいの若者がこういう考えなのかを知りたいと思います。また、海洋での行動準則を決めることは出来ないでしょうか。中国船が領海に来て9時間にわたって滞在したことがありました。幸いにしてあまり反応はなかったものの、日本はナショナリズムが中国のレベルと比べて低い一方で、中国の行動には猛烈に反対します。よく聞くのですが、なぜああいうことが起きたのか回答がないのでしょうか。
 最後に、中国の軍事力が拡張する方向にありますが、そういった中で日本やアメリカとどう戦略的に共存できるのでしょうか。放っておくと軍拡競争になりますから、透明性を高めるだけでなくよく話し合い、不安を解消する必要があります。日米中3カ国の対話が行われるべきです。これが行われると決まったときに嬉しかったのですが、中国側の要請で延期になりました。これは何故でしょうか。

若宮:

 中国に対する懸念について核心部分が出てきたので私からも。軍拡ですよね、特に海に勢力を伸ばす言動が見られます。太平洋についてアメリカが東、中国が西という話もあります。ガス田の話もそうで、そういうことを踏まえてお答えください。

劉:

 深い交流が出来ますね。飛行機の予定で来られなかった人もいますが、明石先生、ご質問はありますか?

明石:

 特にありません。

安全保障対話⑥(後半:討論2)

劉:

 胡先生。

胡:

 本当によい質問です。いくつかは午前中に議論された問題もあります。
 まず軍事力の拡張は覇権主義ではなく、他国の脅威にはなりません。覇権主義だと言うのは思いこみでしょう。学生のアンケートは、一般国民もそうかというと分かりません。ガス田などは高いレベルで話すべきであり、きちんと話せば思いこみは生じません。中国は平和理念を堅持しており、軍事政策においては覇権主義になることを外部環境が許さないと思います。これは歴史を見ても分かることで、まず核を使用しないと言ったのは中国だけです。武力行使はあり得ません。これは日本の政策と同じで、自分を守るためです。広い視野で考えて欲しいのですが、多くの学生はいい感情を持っており、彼らは平和を望んでいます。軍拡への心配は理解できますが、同時に我々の立場も理解して欲しいと思います。一般市民にも理解できるように宣伝してください。
 チベットのテロリスト問題ですが、チベットや台湾問題、テロリストに対しても武器は必要です。先進的な武器を持たないと守れませんから、最低限の武器を保有しているのです。

劉:

 先ほどの質問にお答えしますが、富国強軍ということについてです。
 現代の日本人は愛国心という言葉を使いませんが、この言葉は昔からある言葉です。中国の報道陣が軍国主義という言葉を使うということですが、それは昔の日本についての報道であって今の日本についてではないと思います。
 もう一つ台湾の話です。中台関係と日本は言いますが、気持ちが悪い。これは政治的な立場の問題となります。互いに漢字を使っている国ですから、両岸関係と言ってください。それから東シナ海ではなく東中国海と言ってください。シナと聞くと気持ちが悪い。

 共同開発問題について補足すると、これは若者の問題です。中国の国民はまだ納得していないから、もうちょっと話しましょうと言うことです。了解に達したということには2つのレベルがあります。境界の場所を決めることと、企業がガス田を採掘することを認めることです。この点で日本側は協定違反です。白樺・春暁というのはメディアの誤りであり、誠意を持って解決する必要があります。ずっと努力してきたのですから、大事にしましょう。
 一部の青年は被害者意識を持っていますし、それは理解できますが感情は政策に出来ません。少し厳しい問題ですが、尖閣諸島は中国のものだと思っています。何時間滞在しても、これは自分の義務を果たしているだけですが、日本のメディアはこれを「任務ではないのか」と言います。この問題について学者・政府・民間でひとつのシンポジウムを開くことを提唱します。なぜ日本は尖閣諸島を自分のものとして奪還しないのか。アメリカが釘として残した無人島ですからね。
 それから山口先生の言っていた田母神さんのことです。中国のPKOは確かに犠牲者を出しましたが、万が一日本から犠牲者が出たとき、彼らを靖国に祭らないことを約束して欲しい。応えがたいことだとは思いますが。

若宮:

 劉さんがストレスを一気に吐き出すような行動に出たかなと(笑)
 終わりなのですが、白熱してきたのでもうひとつだけ。例えば尖閣諸島の話は義務だといいますが、今までそれを果たしてこなかったというのはどうでしょうか。また、海軍を強化される時に「これも義務だ」という論理になるのではないかという危惧が出てきます。だから知恵を出そうと言うことが鳩山さんの「友好の海」ということだと思います。そこはご理解いただきたい。

高原:

 たくさんのことを言われたのですが、名称のことだけ。日本が「東シナ海」というとき、中国を軽蔑する気持ちは一切ありません。日本人には中立的な言葉です。

山口:

 二点。まず巡視船の話です。領土の係争があるとき、自国の主張を行動を持って示すということは、国際関係にはよくあります。アメリカはこれをオペレーショナル・アサーションと言っています。海洋法上、ある国が過剰に権利を主張しているとき、軍艦で入っていくということをよくやります。
 次に新型インフルエンザのシンポジウムについてですが、今回の経験を互いにシェアすることには賛成です。豚インフルエンザについても、アフターアクションレビュー(軍事の用語です)を数ヶ月間かけてやることが重要です。教訓を分かち合おうという研究会をやると、世界のためになるでしょう。
 最後に一つ、田母神批判は結構危険で、歴史を知らない人ほど極端に自虐的になるか、極端にナショナリスティックになります。

劉:

 もし質問があれば。

胡:

 冷戦時代のシステムは、アメリカの当時の考え方と離れられません。北の核問題が解決できれば非常に重要な一歩が踏み出せるため、各国政府の役割も大きいでしょう。そこでは日本も中国も努力しなければなりません。東アジアの平和を願っております。

劉:

 結論は出ていませんが、次回の討論に持ち越すことも出来ます。中国とアメリカが太平洋を占領すると言うことはないと思いますし、中国と日本が東アジアの盟主になるというようなことも考えていません。

若宮:

 従来ですと最初からエキサイティングな議論が行われるのですが、今回ははるかに友好的な雰囲気でした。各論はいろいろ課題が残りましたが、印象深かったのは山口さんと胡さんが一番穏やかな話をしたことですね。

親カテゴリ: 2009年 第5回
カテゴリ: 記事