. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 「第2回 東京-北京フォーラム」が達成したもの/第2部:「フォーラムはプロセスに発展し始めた」


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総括座談会 出席者

工藤泰志(司会): 言論NPO代表
白石隆: 政策研究大学院大学副学長
安斎隆: セブン銀行社長
小島明: 日本経済研究センター会長

第2部:「フォーラムはプロセスに発展し始めた」

工藤

 小島さんが先に言われた「民間外交」という話に移りたいと思います。中国はこのフォーラムでもこれまでの民間交流と政府外交の中間の存在として「公 共外交」という概念を提案していました。これは私たちから見れば民間のトラック2とかトラック1・5とか言うものですが、今回のフォーラムで日中間に民間 外交の強いチャネルというのは形成したと判断していいのか、それとも、これはまだまだ過渡的な現象なのか、みなさんはどうお考えですか。

白石

 今回のフォーラムは、今、大いに高い評価を得ておりますが、結局のところ、これから先、このフォーラムをどう使うかによると思います。チャネルなど というものは、使わなかったら、すぐ役に立たなくなります。この2年、「東京―北京のフォーラム」の役割は、ある意味、トラブル・シューティングだった。 しかし、先ほどこつこつヒットを打っていくと言いましたが、実はそれがこれからはやはり中心になっていくのではないかと思います。ではこれから何をする か。

 1つは、できるところからワーキンググループみたいなものをつくって、議論をもう少し深めていく。フォーラムをイベントでなく、「プロセス」にするということです。これは今回のフォーラムの共同声明でも提起されたものですが、「プロセス」というのは、1年の間に何かいろいろなことが起こっていて、一年に一度あるフォーラムまでに、何らかの答えを出していくということです。「プロセス」に変えることができるのであれば、それは大きい転換にはなると思います。ただ、そのためには、お金や人など、今まで以上のコミットメントが要るわけです。それをどうするか、またそれをするに足るテーマとはなにか、それが重要です。

 では、具体的に何をするか。基本は日本と中国の間の信頼関係をどうやってつくっていくのかということでしょう。そのためにテーマとしてどのようなものがあり得るのか、きちっと考えるところから始めた方がいいと思います。

工藤

 確かに今回のフォーラムの各分科会では、参加者の皆さんの間でいろいろなことが合意されています。作業委員会を作って次の北京までに提案しようとの 話もありました。つまり、議論はプロセスに変わり始めています。これは参加者が受身ではなく、主体者に変わり始めて、このフォーラムの議論を担おうとする 動きだという感じがしました。そういう人たちが、このフォーラムを舞台に動き出せるような仕組みを今つくっていくということが問われていると思います。

安斎

 私は、フォーラムに官僚、政治家も個人の立場とはいえ、もっと入ってもらったり、アジアの人たちも傍聴ができるとか、世界の人が見守る中で議論が進 んでいくような形にしたい。ホームランは打った数は変わらないけれど、これからは打率を稼いでいかなければならない。ただ、打率をキープするというのは物 すごく難しい。

 だから、同じテーマでも構わないからアジアでもアメリカの人でも見ている中で議論をするように、角度を変えたらどうか。会場に来た人から質問が出る かもしれない。質問を受けて、両国が答える。それが、アジアの人たちがどっちを向いて、どういうふうにして動いていいのかわからないという不安感の除去に もつながる。

 そうすると、さすがに大国2つがしっかりしてきたと思われます。両国関係のテーマといっても、所詮は信頼関係を築くことが目的となる。

工藤

 環境・エネルギー分科会では、フォーラムの前から準備をして、会議ではどういう認識を共有して、どういう合意をするのかなどの打ち合わせをしてから、フォーラムに臨みました。分科会では何が合意されたのですか。

小島

 要するにフォーラム自体をプロセスにしようという合意ができたわけですね。来年の北京大会までにその準備を行うということです。パネラーに参加して いただいた、日本のエネルギー研究所と中国のカウンターパートは既にいろいろ共同で研究活動をやっていて、気心が知れていました。このネットワークで フォーラムを続けたいという気持ちが出てきたんですね。テーマとしては非常に議論しやすい、入りやすいテーマですし、少し議論すればお互いにプラスのとこ ろが多い分野ですから。それはすぐ動きますよ。

安斎

 その人たちが専門家であるとすれば、このフォーラムはどう引き継いでいくかが課題になると思います。このフォーラムを核として議論がなされて、みんな具体化に向けて動く。そしてまたフォーラムの中で報告がなされていく。

白石

 日中の間にはいろいろなトラック2があります。僕が関与しているものだけでも3、4つある。資金の出どころは政府ないし民間財団で、研究者同士が議論する、そこに政治家、ジャーナリストが入ってくるといったものです。こういうさまざまのトラック2によってずいぶんネットワークはできている。しかし、考えてみると、どこにもハブがない。いろいろやっているけれども大きな力にならなかったのはそのせいかもしれない。

 ところが、今回、1つハブができた。フォーラムがハブになった。ただし、このハブの悩ましいところは、政府と違って、おカネがない。事務局もみんな 手弁当でやっている。したがって、政府のまねごとはできない。いろいろなトラック2がこのフォーラムから派生してきても、おカネや何かはみなさん、各自で やってください、という形にしないと破綻する。それは逆に言えば、これまですでにいろいろなトラック2に参加している人をどんどん「東京―北京フォーラム」に引っ張り込んで、ハブ機能を強化するというのが、フォーラムのひとつの行き方となるということだと思います。

工藤

 そういう人も入ってもらって、実行委員会方式にしたらどうかということはずーと考えていました。言論NPOが事務局になって。

白石

 フォーラムがネットワークのハブになって、そこで何か新しいものが動き始める。しかし、それはほかのグループが担当する、そういう形がいいと思います。

安斎

 方向づけは私たちでするが、具体的には皆さんに動いてほしいと。

工藤

 それはやっぱり本音で語り合える議論の場の設計と提供が、私たちの目的だったからです。そして、議論の形成はプロセスとなり、その内容は公表していく。そうした循環が始まることがこのフォーラムを発展していくことになると思います。その点で、東京-北京フォーラムはいくつかの合意をしています。言論NPOとチャイナディリーが日中の議論交流のための共同のウエッブサイトを作ることです。

 すでに中国側ではフォーラムの翌日の8月5日に、チャイナデイリーが、中国の巨大なインターネットメディアと組んで、日本との相互理解を深めるため のサイトをつくっています。そこで日本に対する質問が2000人ぐらいが来て、その回答を言論NPO側が行うことになったわけです。彼たちは、そういう議論の発信をしていき、それが公開されるような仕組みをつくって、それを稼働させて次の北京大会につなげることをイメージをして いるように見えます。それが成功していけば、アジアのいろいろな人たちの声がいずれそこに参加していくような形が実現するかもしれない。まさに今はそうし たプロセス下にあるように思います。

安斎

 そういうふうに地道に続けることは大きいですね。実際に大変なことになると必ずまともにやっているところにニーズは来ます。ある意味で大変なときに ホームランを打つのは楽なんですが、本当に世の中全体がうまくいき始めると、地道に続けていくことが却ってかなり難しくなるものです。

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2006年09月22日 12:35

親カテゴリ: 2006年 第2回
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