. 言論NPO主催「東京-北京フォーラム」公式サイト - 共通利益の拡大によって対立を乗り越えていく(全体会議:後半)

 全体会議の後半では、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)と陳健氏(中日友好21世紀委員会秘書長)による司会の下、「北東アジアの平和と日中両国の責任―対話の力で困難を乗り越える―」と題したパネルディスカッションが行われました。

 日本側からは、五百旗頭真氏(熊本県立大学理事長、前防衛大学校長)と長谷川閑史氏(武田薬品工業会長CEO、経済同友会代表理事)の両氏が、中国側からは魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)と朱成虎氏(中国人民解放軍国防大学戦略研究部教授、少将)の両氏が参加し、活発な議論が展開されました。

140928_miyamoto.jpg まず、日本側司会の宮本氏が、「世論調査では両国国民の相手国に対する国民感情は依然として厳しい状況にあるが、日中関係の重要性については多くの人が認識している。しかし、『なぜ重要なのか』ということは多くの人がわからなくなってきているのではないか」と指摘。さらに、「相手国に対するイメージも実態とのギャップがある。このように『漂う日中関係』から脱し、どのように日中関係の将来について考えていくべきか」と問題提起し、議論がスタートしました。

 

 

140928_shu.jpg 最初に基調報告に立った朱氏は、日中関係が重要である理由として「双方の国民の福利に資するとともに、地域の安定と繁栄のために不可欠だから」と述べ、特にこの「地域」の視点から、「日中両国は『グローバル化』については熱心だが、『地域化』については無関心だ」と指摘。その上で、「確かに、領土や歴史など解決困難な問題はあるが、東シナ海周辺における危機管理メカニズム態勢構築など早急に解決可能な問題もある」と述べ、さらに、「この空域・海域で偶発的事故が起これば、両国民の民族主義を刺激し、大規模衝突に発展する危険性がある」と、危機管理での協力によって地域を安定させる必要性について主張しました。

 さらに、朱氏は中国側の視点として、「冷戦の産物であった日米同盟が縮小どころか強化され、その対象が中国になっていることに中国人は非常に大きな不安を感じている」と述べました。その上で、「不安を解消するためには、東シナ海を『平和・協力の海』にする必要がある。例えば、海上の安全や資源の共同開発など様々な分野で協力を進めていくべき」と提案しました。
朱氏は最後に、「軍事・安全保障の分野ではゼロサム関係になることはない。戦争ではなく平和共存のために、政治家、メディア、さらには国民も大局的な視点から日中関係の将来について考えていくべき」と話して基調報告を締めくくりました。

140928_iokibe.jpg 日本側の基調報告で五百籏頭氏は、歴史家の立場から、歴史の教訓に学ぶことの重要性について語りました。「戦争はなぜ起こるのか。それは新興勢力の台頭と、それに対する既存の大国の対抗から生まれる」と述べ、「しかも、このバランスが崩れる場合はもちろん、維持された場合でも、国民間で相手に対する敵愾心が高まれば戦争は起こり得る」と第一次世界大戦を例に挙げました。
 その上で、ビスマルク体制下のドイツや冷戦時のアメリカを例に「平和を保つためには、まず優位に立っている国の方から自制するべき」と主張。「日中関係が破綻したら、両国のみならず地域や世界に対する悪影響が大きい。共同して平和で安定したアジア太平洋を実現するためにも、日中両国は優位に立っている側が自制しながら、協力を拡大していく必要がある。歴史から目を背けてはいけないが、歴史に支配されてもいけない。協力によって新しい歴史をつくっていくべき」と語りかけました。

 

140928_gi.jpg 基調報告を受けて魏氏は、貿易や投資の統計を引用しながら、日中貿易が大幅に減少した結果、数年前まで中国にとって最大の貿易相手国であった日本が、今や5番目の貿易相手国になっている現状を紹介。「両国の経済的な相互補完関係がなくなってしまうのではないか」と懸念を表明しました。
 続けて、「両国関係の悪化は地域や分野を越えて、様々な悪影響をもたらす」と警鐘を鳴らし、「この危機を乗り越えるためには、APECは大きな好機だ。この好機を逃すことの損失は計り知れない」と述べ、11月のAPECで日中首脳会談を何としても実現するべきとの認識を示しました。その上で、「両国関係の悪化は誰の得にもならない。日中首脳会談は政府間だけの問題ではなく、国民間の問題でもある。そのためにも、この東京―北京フォーラムで関係改善に向けた雰囲気をつくり、首脳会談再開を後押ししていく必要がある」と訴えました。

 

140928_hasegawa.jpg 長谷川氏は、日中間の貿易や投資の大幅な減少について、魏氏と同様の懸念を表明しつつ、「企業家同士では良好な関係を維持しているが、政治指導者に会うと経済以外のことで責められる」と自身の経済同友会の訪中団の際の経験を披露。「今こそ『政冷経熱』を『政治は冷静に、経済は熱く』というように概念を見直すべき。隣接する経済大国同士は摩擦が起きやすいものだが、それを乗り越えてウイン-ウインの関係を築いていこう」と呼びかけました。
長谷川氏はまた、「両国の経済は共に転換点を迎えている。日本はアベノミクスが規制改革に臨み、中国は高度成長が終わりを迎え、『新常態』に移行しようとしている」と指摘。共に既得権益層の抵抗が予想される改革に臨もうと、似たような状態にある両国は、分かり合える部分も増えてくるため、「環境などで新たな日中協力事業を立ち上げて、顔を合わせる機会を増やせば、意気投合できるのではないか」と提案しました。
 

 最後に長谷川氏は、日中韓で始まった経済連携の動きが、日本を別に、中韓だけで進められようとしていることに対して、あくまでも日中韓の枠組みが東アジアのためには重要であり、さらにそこから中国をTPPに取り込んでいけば、世界に対するインパクトは大きい」と述べました。

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 パネリストの基調報告を受けて宮本氏が、現在の外交では「どちらが勝った、と決着をつけることは困難なのではないか」と問いかけると、五百籏頭氏は「島の取り合いはゼロサムゲームになってしまうが、環境、公衆衛生など国境を越えた共同のチャレンジは双方の利益になる」と話しました。魏氏も「日本ほど中国のことを知っている国はないし、中国ほど日本のことを知っている国はない。共同プロジェクトを中心に協力関係を再構築していくべき」と述べるなど、共通利益の拡大によって対立を乗り越えていくことについて発言が相次いだ後、全体会議の後半が終了しました。

 午後からは、政治、経済、メディア、安全保障の4つのテーマに分かれた分科会が開催されます。議論の詳細は各分科会の報告記事をご覧ください。

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⇒全体会議前半:日中の対話の力でこの困難を乗り越えられるのか

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